エクセル運用による連結決算のリスクとその対策

監修者:公認会計士 飯塚 幸子

エクセルを活用して連結決算を行う企業は多く存在しますが、その運用にはいくつかのリスクが伴います。

特にバージョン管理やデータ損失のリスクは、決算業務の正確性と効率性を大きく損なう可能性があります。

本記事では、エクセル運用における主なリスクと、それを最小化するための具体的な対策について解説します。

エクセル運用による主なリスク

1. バージョン管理のリスク

エクセルファイルは、複数人で編集・共有する際にバージョンが乱立しやすい特徴があります。

異なるバージョンのファイルが複数存在することで、どれが最新のデータか分からなくなり、集計ミスやデータの不整合が発生するリスクが高まります。

2. データ損失のリスク

エクセルファイルは、誤操作やハードウェア障害によってデータが失われる可能性があります。

特に、バックアップが適切に行われていない場合、一度失われたデータを復元することは困難です。

3. ヒューマンエラーのリスク

エクセルの手動操作が多い場合、入力ミスや計算式の削除、リンク切れなどが発生するリスクが伴います。

これらのミスは連結財務諸表全体の信頼性を低下させる可能性があります。

4. セキュリティリスク

エクセルファイルには、機密性の高い財務データが含まれることが多いため、適切なセキュリティ対策が施されていない場合、不正アクセスや情報漏洩のリスクがあります。

リスクを最小化するための対策

1. バージョン管理の徹底

バージョン管理を適切に行うことで、ファイルの混乱を防ぐことができます。

以下の方法を活用すると良いでしょう。

  • クラウドストレージの活用: Google DriveやMicrosoft OneDriveなどのクラウドストレージを利用することで、リアルタイムでのバージョン管理が可能になります。
  • ファイル命名規則の設定: ファイル名に日付やバージョン番号を含めることで、最新のファイルを容易に特定できます。

2. 定期的なバックアップ

データ損失を防ぐためには、定期的なバックアップが欠かせません。

  • 自動バックアップ機能の利用: エクセルの自動保存機能を有効にするほか、クラウドストレージを活用してバックアップを自動化します。
  • 外部ストレージへの保存: 重要なファイルは、外付けハードディスクやネットワークストレージにも保存しておくと安全です。

3. 操作ミス防止策の導入

ヒューマンエラーを最小化するためには、以下の対策が有効です。

  • テンプレートの標準化: 定型フォーマットやマクロを活用し、データ入力の正確性を高めます。
  • 入力規則の設定: データの形式や範囲を制限することで、誤入力を防ぎます。
  • チェックプロセスの導入: ダブルチェックやピアレビューを実施し、ミスを早期に発見します。

4. セキュリティ対策の強化

エクセルファイルのセキュリティを強化することで、情報漏洩リスクを低減できます。

  • パスワード保護: ファイルにパスワードを設定し、アクセス制限を行います。
  • アクセス権限の管理: クラウドストレージを利用する場合、ユーザーごとに権限を設定します。
  • 暗号化の導入: 財務データが含まれるファイルは暗号化して保存することで、安全性を高めます。

まとめ

エクセルを活用した連結決算業務には、多くのリスクが伴いますが、適切な対策を講じることでこれらのリスクを最小限に抑えることが可能です。

バージョン管理の徹底やバックアップの実施、ヒューマンエラーを防ぐための工夫、セキュリティ対策の強化を組み合わせることで、エクセルを安全かつ効率的に運用できるようになります。

企業の規模や業務の複雑性に応じて適切な手法を選び、連結決算業務の品質と信頼性を向上させましょう。

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